極上な王子は新妻を一途な愛で独占する

気配とはそんな簡単に消せるものなのだろうか。

少なくともシェールには出来ない。

運動には自信があるのに……やはり特別な訓練が必要な気がする。
そんな訓練を受ける人間は限られている。例えば敵の城に忍び込むような、危険と隣り合わせの職業。


「……カレルって密偵とか?」

王族でもそんな仕事をするのだろうか?

首を傾げていると、呆れた声がした。

「お前って本当に……普通、この場面でその台詞は出ないだろ?」

「えっ? あの、言うつもりは無かったんだけど、つい口から出てしまったと言うか……」


弁解しながらもホッとしていた。目の前で苦笑いする彼は、以前と変わりないシェールの好きなカレルだったから。


「シェールは相変わらずだな」
「どう言う意味?」
「のんきで、見ているとホッとする」
「何それ? 私だって、いろいろ考えてるんだからね!」

「そうか? なんかいつもヘラヘラ笑っていて、悩みが無さそうだけどな」
「そんな事無いから! 私だって凄く頭使ってるんだからね」

そう、これから迎える千日目を前に、未だない程知恵を絞って、気を張り詰めているのだ。

だけど、カレルと目が合うとそれ以上とやかく言えなくなってしまった。

意地悪な事を言うくせに、カレルがシェールを見つめる目はとても優しいのだ。

まるで、愛おしいものを眺めるように。


そんな目で見つめられると、シェールはどうしていいのか分からなくなる。

軽口なんて叩けるはずもなく、つい目をそらしてしまった。


するとカレルの手が伸びて来て、シェールの深く被っていたベールを取り去った。

「な、何で?」

ここは日陰じゃ無いのに。今は誰も居なくても、いつ来るか分からないのに。

慌ててベールを取り戻そうとしたけれど、逆にその手をカレルに掴まれてしまった。