極上な王子は新妻を一途な愛で独占する

診療小屋を出たシェールは、森に向かっていた。

深い森の入り口には、管理と見回りを仕事としている人々の詰所がある。

カレルも以前はそこに居たはずだ。
マグダレーナの話によれば今はおらず、彼の事を知っているの人もいないという事だけれど。

シェールは詰所に目を遣りながらも、寄らずに通り過ぎた。

森の入り口に着くと中には入らずに、細い迂回道を進んで行く。

先には小さな湖があり、簡素な休憩所もある。
カレルと何度も休憩に立ち寄った思い出の場所だ。

当分来れないだろうから、寄っておきたくなったのだ。

「誰もいない」

住宅区から離れている為か、普段もそれ程人気はない。
けれど誰もいない事は珍しい。

「寒いからかな」

そう呟くとシェールは休憩所のベンチに腰掛けた。

ほとんど波の無い静かな湖を見て、小さな溜息を吐いた。


本当は少し期待していた、もしかしたら、カレルが居るかもしれないと。

ベンチにごろんと寝転がり、空を見上げているいつもの姿を思い出した。
懐かしくなって、ここに来れば会えるかもしれないなんて思って……。


「そんな都合よく行くはずないよね」


自嘲気味に呟くと、シェールはそっと目を伏せた。

こんな風に、カレルの姿が見られなくなるなんて想像していなかった。

シェールの状況が変わっても、カレルはいつも通り村にいて、シェールの顔を見れば笑ってくれると思っていたから。


だけど実際にはカレルにも事情がある。きっとシェールには想像もできない様な事が。


「仕方ないよね……」


なんとか気持ちを切り替えて立ち上がろうとし時、森の中を影が過ぎるのを見た。

目を凝らすと、どうやら人がいるようだった。

シェールは今度こそ立ち上がり森に近付いて行った。

もしかしたらマグダレーナの関係者かもしれないと思ったのだ。