「……それなら、カレルは誰なの?」


しばらくの沈黙のあと、マグダレーナがぽつりと言った。

「……マグダレーナ様はどうしてカレルに拘るのですか? 黒髪が高貴な色だと言う事は分かりました。でも、実際の彼は貴族ではありません」

「言ったでしょう? 今は貴族でなくても、王の血筋だと分かれば王族になれるのよ」

「生まれが分かったからって王族になれるものではありません。無理をさせても彼は幸せになれない……私だってそうです」

シェールのその言葉に、マグダレーナが目を見開く。


「お前は平民の暮らしから王弟妃になったのよ。普通なら考えられない出世じゃない? それが不満だって言うの?」

マグダレーナは本当に驚いているようだった。

シェールは、マグダレーナに本音を語った事は無い。
表向き、引き取ってくれて身分を与えてくれたユジェナ侯爵に感謝を示していた。
彼女はそれを疑う事なく信じていたのだ。

「不満でしたよ。本当は結婚なんてしたくなかった。私だってやりたい事は沢山有ったんです」

「やりたい事? 王弟妃になる事より大切な事が有るって言うの?」

「はい。そんな驚く事じゃないですよね? だって本当に良い話なら、私が呼ばれる訳がありません。マグダレーナ様が王弟妃になっていたんじゃないですか?」

「私はユジェナ侯爵家を継ぐ為に婿を取らないといけないから……でもそんなに嫌だったなら断れば良かったじゃない!」

マグダレーナは今度は怒り出し、顔を赤くして声を高くする。