中に入ると特にこれといった物なんてない。
キッチンはあるけど使った形跡はなし。
その奥にはテレビとテーブルとベッドだけ。
その他の物なんて何もない。
「え、ほかのみんなは?」
「他って?」
晴馬君は鞄を置いてすぐに冷蔵庫を開ける。
「家族…」
「いねーよ。俺、一人。あ、萌これ飲む?」
差し出されたカフェオレに軽く頷き受け取る。
「なんで?晴馬君、お父さんいるよね?なのになんで一人で住んでんの?」
「ほんとお前、俺のこと何も知らねーのな」
晴馬君は苦笑い気味で言葉を吐き、缶コーヒーのプルタブを開ける。
「知らないよ。だから今聞いてる」
「用なしの俺はいらねーって言われたから」
「だれに?」
「親父に」
「なんで?」
「んー…俺の生活態度が悪すぎて?ってやつかな。妹にも悪影響だって」
「だからひとりなの?って、妹いるの!?」
「あぁ、居る。話さねーけど。で、世間に恥かくからだってよ。だから一人で住んでる」
「…世間に恥?」
「俺の親父、医者だからよ、跡継ぎってもんが必要で、それに逆らったのは俺」
「……」
そうだった。
一度、麻友ちゃんから聞いた事があった。
晴馬君のお父さんは医者だって。
その時は凄いねーって言ってた記憶はあるけど…
まさかそこまでの深い話なんて知らなかった。



