「…萌?」


不意に聞こえた芹奈ちゃんの声に身体が飛び跳ねる。

目があった芹奈ちゃんは一度目を泳がしたけど、すぐに笑みを作った。


「2階に行こっか」

「芹奈ちゃんっ、」


あたしに背を向けた芹奈ちゃんに声を掛ける。


「うん?」

「ごめんね、ごめんね。透哉君…」

「大丈夫だよ。今向かってるって連絡来たから。麻友も来てるって」

「……」

「お前らまだ居たの?早く行かねーと場所ねーって」


着替え終わったカイトくんが呆れた様子であたし達を見る。


「今から行く」

「急ぐぞ。人増えてきた」

「うん。萌も早く」


2人の背後に着いて行く。

ザワザワと騒めく会場に不安とドキドキを増していく。

初めて見る晴馬君の姿をこの目で焼き付けたい。


もっと、もっと知りたい。

何も知らない事が多すぎて、この人の事を全て知りつくしたい。


ほんとに、ほんとに何も知らない。

誕生日も血液型も電話番号も住んでる所も好きなものも嫌いなものも何も知らない。


だから凄く思った。

藤堂晴馬と言う人を全て知りたいって、心から思った。



〈この後、4時から全国高校弓道部男子個人戦、百射会を行い――…〉


「えっ、これ百射会なの!?」

2階に着き、アナウンスの声に芹奈ちゃんが声を上げる。


「あぁ」

「百射会って、なに?」


芹奈ちゃんを真ん中に挟んで、あたしはのめり込む様にカイトくんを見つめる。