「悪い」

「ううん」


蛇口を閉めた晴馬君が腕全体を拭き、真新しい制服のシャツに腕を通した。


「萌。今から行くから一緒に来て」

「え、どこに?」

「大会。まだ間に合う。今、カイトに頼んでる」

「えっ、カイトくん?なんでっ?」


ちょっと早足で進めて行く晴馬君。

その足を必死で追うあたしは晴馬君を見上げる。


「カイトは弓道部員。もうとっくに引退してるけど」

「えっ、そうなの?」


だからだったんだ。

カイトくんと晴馬君が仲良しな理由。

全然対照的に違う風貌からタイプなのにどうしてだろうと思ってた。

その繋がりは弓道だったなんて、今知った。


カイトくんも教えてくれればよかったのに。


「本当はもうどうでもいいって思った。でも俺、萌と約束したから」

「約束?」

「お前、忘れたの?俺が優勝したら萌の一日を俺にくれって言っただろ」

「あ、」

「馬鹿。忘れんなよ。俺、超真剣だったのに」


いつもの晴馬君だった。

馬鹿って、あたしに言った。

その言葉があまりにも久し振りで、なぜか笑みが零れた。


でも、それってあたしの為じゃないでしょ?