その日の放課後、晴馬君を見かけた。
一人中庭を歩いて何処かに向かって行く晴馬君を見かけた。
「もえー、帰るよぉー」
遠くのほうで麻友ちゃんが呼んでる。
麻友ちゃんの声が聞こえるけど、あたしの視線が何故か晴馬君に向いてて。
「萌、早く帰ろ?帰りにさ、ちょっとケーキでも食べない?萌もさ、糖分とったほうがいいよ」
「……」
「ねぇ、聞いてんの?なにかあんの?」
「えっ?」
ヒョイっと顔を窓の外に向けた麻友ちゃんが、裏庭を見渡す。
「なに?なんかあんの?」
「ううん、なんでもない」
晴馬君の姿が丁度見えなくなったことに何故かホッとする。
「じゃ、早く行こ?」
「…あ、ごめん麻友ちゃん」
「え?」
「先生に呼ばれてたんだった」
「えー、忘れてたの?」
「ごめん。いつ終わるか分かんないから今日は先帰ってて」
「んー、分かった。じゃまた今度ね」
先生に呼ばれてるなんて嘘だった。
ごめん、麻友ちゃん。
本当は晴馬君が気になったから。
なのにそんな事も今では麻友ちゃんに言えなくなってる。
いつもなら晴馬君がって、色んな話してんのに今ではすっかり話す事もない。
だって、晴馬君があたしに一度も近づかないから。
それはなんで?
どうして?
晴馬君の言った事を聞かなかったから?
ねぇ、晴馬君、なんで?



