「萌、おっはよー」


上履きに履き替えようとした瞬間、ドンっと背中を叩かれた拍子に身体がビクンと飛び上がる。


「お、おはよう。麻友ちゃん…」

「あれー?元気ないねー…佐々木と会ったんじゃないの?」

「……」


何故かその名前は聞きたくなかった。

不意に触れてしまった唇の所為で思い出す。


嬉しさなんて何も残ってない。


「ん?どうした?元気ないじゃん」

「そ、そんな事ないよ」

「ふーん…。あ、サボリ魔、晴馬登場」

「…っ、」


は、晴馬君とは会いたくない。

正直言うと物凄く気まずくなっているから。


「ほんと晴馬は自由人の獣だわ。萌、あたし職員室に行くから先に行くよ」

「う、うん…」


ヒラヒラと手を振った麻友ちゃんの背中を眺める。

フーっと一息吐いて靴箱をパチンと閉めて振り返ると、後ろに晴馬君が居た。


どうしよう…なんて思っていると、


「萌ちん、おはよ」


晴馬君はいつもと同じ笑みを向けてくれる。

だけどいつもと違う雰囲気にジッと見つめてしまった。


「…うん、おはよう」

「てか何?俺の顔ジッと見て」

「あ、晴馬君、メガネ掛けるんだ」

「あー…目の不調でコンタクト出来ねぇんだよ」

「そうなんだ。知らなかった」

「だって萌、俺の事なんも知んねーじゃん。友達なのに」

「そ、だね」

「つかなんかあった?いつものお前じゃねーよな」

「ううん。そんな事ない。じゃ行くね」


晴馬君と居ると何故か笑えない。

むしろ今までどうやって晴馬君と接してたのかも分かんない。


ねぇ晴馬君。

晴馬君はどうして佐々木君の事をやめたほうがいいって言った?


もっと詳しく聞きたいのに、聞けない。

晴馬君は何を知ってるの?