「やっとやる気になったか、デブ」


そんな思いやりのない声に振り返ると、嫌味な沢渡篤志が筋トレをしていた。


「今頃になって本気だしても遅いがな」と、付け加えることを忘れない。


無視しようかと思ったが、私はヤツの隣のベンチに寝転がり、バーベルに手をかける。


どれくらいの重さか分からないが、今なら怒りで持ち上げられそうだ。


「んぐっ‼︎」


ビクともしない。


「脂肪の塊が、持ち上がるわけないだろ」


「う、うるさい‼︎」


「それにお前、筋肉つけたら体重は重くなるぞ?」


「えっ?」


「当たり前だろ。体質を変えて痩せるには、筋肉が必要になる。脂肪を筋肉に変えるわけだからな」


小馬鹿にしながらも、一応は教えてくれる。


さすがプロボクサー。


減量のノウハウを知っているわけだ。


「お前の場合はあと2日で4kg減らすわけだろ?筋肉をつけて代謝を高めたところで、なにもかわらない」


「じゃ、じゃどうやればいいの?」


「なにも食うな。死ぬまで走れ」


すでなくいい捨てると、立ち上がった。


「ちょっと待ってよ‼︎それしか、ない?」


大嫌いだったヤツに縋るしかない自分が情けないが、篤志は私を見て、にんまり笑った。