死体が腐っていく。


由加里が由加里でなくなる。


私が、私でなくなってしまうように__。


ゆうに10日間は、なにも口にしていない。


私が優勝だと知らされてからは、もう3日になるだろうか?


飢えがひどくて、体のあちこちが痛み出す。


胃液がこみ上げ、さらに3日ほどが過ぎただろうか?


ついに、脳は考えることをやめてしまった。


考えることをやめても、感じることはできる。


いや、考えることをやめたからこそ、より敏感に感じ取ることができるんだ。


それはまず嗅覚だった。


腐敗の匂い。


本来なら鼻がもげるほどの匂いが、芳(かぐわ)しく感じられる。


食べ物が熟成して発酵するような、香り。


抗(あらが)うことのできない、芳醇さ。


それを振り払う気力も、私には残されてはいなかった。


匂いに惹き寄せられるように、四つ足で這う。


【肉】のもとへと。


土気色に変わってしまった肌も、今の私からすれば、サシが入ったピンク色にしか見えない。


ふと気づけば、自分の手が伸びている。


自分の手なのに、誰か別の生き物のようにやせ細った手だった。


意思とは関係なく、固まった腕を掴もうと伸びる手。


私はその手に、はさみを突き刺した。