【食べられた私】


「ううっ、ううぅっ‼︎」


隅っこで唸り続けている由加里に、そっと近づく。


なにかを追い払うように、自分の頭を叩くその背に手を伸ばす。


背中に触れた瞬間__。


「嫌‼︎」


弾けたように跳び上がった由加里は、私を突き飛ばして反対側の隅っこに行ってしまった。


まるで、怯えているのは【私】だとでもいうように。


もうどうしていいか分からず、力なくその場に腰を下ろす。


決勝戦が始まってから、3日は経っただろうか?


決勝戦が始まるまでにも、恐らく3日ほど。


合計、1週間以上、なにも口にしていない。


喉だけでなく、体や心まで乾いていくのが分かった。


時折、強烈な飢えが襲ってくる。


それは耐え難い苦しみだ。


けれど、なにも食べるものがないなら諦めがつく。だって、草すら生えていないのだから。


「ううっ‼︎」


由加里は、諦めがつかないんだ。


目の前に、食べ物がうろついている。


【私】という極上の肉が。


それでも、襲いかかってはこない。その気持ちに蓋をしているからだ。


由加里はとどまっている。


だから今のうちになんとかしないといけない。


もし由加里でなくなれば、私なんか太刀打ちできないから。