審判が現れて場が静まる。

この静まり返ったこん瞬間が堪らない・・・このおっさんはどんな戦いを見せてくれるのだろうか・・・。

「それでは両者、正々堂々と勝負・・・始めェ!」

審判が勝負開始のゴングを鳴らした直後であった。おっさんは凄い勢いで遥の懐に入ってきた。

「なっ、もう私の懐にっ・・・!?」

「遅いなァ。」

キーンと刀と刀がぶつかる音が響き渡る。遥は懐に入ってきたおっさんの攻撃を寸前で防いだ。

しかし攻撃を止められたからといって、これで終わるわけではない。おっさんは攻撃を止められたら再び、攻めて攻めて攻めまくる。遥はそれをただ避ける事しか出来なかった。

このおっさんは刀をまるで棒の如し扱うためやりにくいのだ。

義経流・・・それは機敏な動きで相手の懐に入って殺す剣術である。そこに正しい刀の扱い方など無く、まさに棒の如く荒々しく扱う。遥の国ではこの様に荒々しい戦い方をする侍を坂東武者という。

そんな、荒々しいおっさんの攻撃だが確かに今のところは逃げるので精一杯だ。しかし、機敏性では遥の方が桁違いに上である。おっさんもそれを次第に痛感していく。

最初こそ虚を突き、戦いの主導権を握っていたかに思われていたが、次第に攻撃を軽々と避けられる様になっていった。

(これは俺の剣速がある遅いのか・・・いや違うっ!この小娘が恐ろしいほど速いのだっ・・・!だが、いつまでも逃げていては勝てれんぞぉ小娘ェ!!力では男のワシの方が上じゃァァァ!!)

するとそれまで避けるのに手一杯だった遥は攻めに転じようとする。

「向かって来るか小娘ェ!!」

「義経流・・・確かに強い。戦争みたいな多数の敵と戦うにはもってこいの戦い方だ。」

ガシャーンと二人の刃と刃がぶつかり合う。

この時、おっさんは改めて痛感した。圧倒的な力量の差に驚いてしまう。

(ぐっ・・・!この小娘の刃、なぜこんなに重いっ・・・!この歳でどんな修練、人生を歩んで来たらここまで強くなれるっ・・・!)

「軽いな。おっさんの刃は実に軽いな。」

おっさんの刀の刃がピシッピシッとヒビが入っていく音がする。それだけ遥の刃が重いという事である。

遥の剣は勝負に賭ける思いと、昔からの地獄の様な鍛練の辛さ、家名を背負うという重い思い、そして武芸の世界に生きるという人生を賭けた思いが重なって、それが刀の・・・遥の剣の強さと重さへとなる。いうならば、これは遥の思いの強さとも言える。