「…かっ!」

「…みかっ!」

「海夏!!!」


あぁ、と私は納得する。
この声はよく知っている声。
愛しくて、恋しくて、焦がれていた声。
そんな声の持ち主はこの世界の中でたった一人しかいない。
たった一人しか、知らない。

私は、今度こそそちらの方を向く…。

と、途端に凍った世界から引き上げられた。


ぎゅうっ


温かな胸。
頬に落ちてきた、温かな雫…。


目を開けると、真っ白い天井と真っ白な布で統一された部屋に自分はいた。
そこに、蒼白い顔で私の顔を覗いている緋翠が映り、ここは夢の世界だとそう思った。
でも、皮膚に感じる温もりは嘘をつかない。
今、私は本物の緋翠に抱き締められている…。


「ひ、…すい…?」

声を出すけれど、その声は掠れるどころか酷くしゃがれていて、みっともないくらいだった。


「うん、うん…海夏。倒れたって聞いて…!保健室に言ったら酷い過呼吸で病院に運ばれる所で…!俺、気が気じゃなくて…っ。海夏全然目を覚してくれないし…」


そう早口で言ってくる緋翠の体は小刻みに震えていて、私はその体を抱き締め返して、小さく、


「ごめんね」


と返す。
でも、緋翠は首を大きく横に振って違うと言う。