ヴァーチャル・リアリティ

「刻印って……この棒を使うの?」


梨花子の言葉にあたしは思わず自分の足元へ視線を向けた。


もちろん、そこには何もない。


今回はあたしの名前は呼ばれていないのだから、あるはずがない。


しかし、何もない足元を確認することで安堵していた。


脳裏にはアユの悲鳴が蘇ってきている。


「梨花子、刻印って本当に押さなきゃいけないのかな?」


ずるいと理解していても、そう聞かずにはいられなかった。


あたしの時はまだなにが起こるのか分かっていなかったけれど、今度は違う。


刻印を押せば、相手に何かが起こる事はきっと間違いないのだ。


「え……。だって、時間制限もあるし……」


梨花子が戸惑った声を出す。