ヴァーチャル・リアリティ

「黒い影がずっと部屋の中にあったのに、気が付かなかったのか?」


「え……?」


唖然としたのは、きっとあたしだけじゃなかったはずだ。


沈黙が訪れて、みんなが晴道の次の言葉を待っているのがわかる。


「最初は小さな影だったけど、だんだん大きくなってきてた。時間制限に間に合わなかったら、この影に襲われるのかなって思ってた」


「うそ……」


そう呟いたのは梨花子だった。


「まぁ、ゲームはそうじゃなきゃつまらないよな」


気を取り直すように陽大が言う。


少しはスリルがあった方が面白いのは理解できる。


けれど、これはVRなのだ。


皮膚感覚も存在しているVR。


そんな中に何かに襲われたり、壁に押しつぶされでもしたら……。


そう考えて血の気が引いていくのを感じた。