ヴァーチャル・リアリティ

こんな申し出、今の晴道になら簡単に断る事ができただろう。


でも、幼い頃から植え付けられた恐怖は簡単にはぬぐい切れていなかった。


反論しようと口を開いた瞬間、お皿が飛んできた。


咄嗟に身を屈める晴道。


皿は床にぶつかって砕け、破片が晴道の肌を切り裂いた。


次にコンロに火がつけられる。


幼いころの火傷が、ヒリヒリとしびれ始める。


「返事をしなさい晴道」


「わかり……ました……」


まともな生活などさせてもらえていなかった。


食事だってままならなかった。


それなのに、未だに心は縛られ続けているのだ。


女性がこちらを向いてニタリと笑う。


女性が提示した金額、それは初任給の半分以上を占めていた。


それでも晴道は頷くしかなかった。