けれど、ドスン、ドスンと聞こえてくる足音には十分聞き覚えがあった。


梨花子が硬直し、青ざめる。


自分の後方を確認したいけれど、できない状態みたいだ。


「梨花子、逃げて!」


あたしは咄嗟に叫んでいた。


走っても走っても近づくことができないのなら、もう叫ぶしかなかった。


梨花子がハッとしたようにこちらへ視線を向ける。


その頃にはすでに、ソレは梨花子の真後ろまで移動して来ていた。


闇の溶けて黒かった姿は真っ赤な鬼へと変貌し、梨花子を見おろしている。


「梨花子!」


晴道が悲痛な叫び声を上げる。


梨花子が一歩前へ足を踏み出したのに、鬼が金棒を振り下ろしたのはほぼ同時だった……。