「彩ちゃんはどんな人がタイプなの?」
あれ?わたしさっきから質問攻めされてない?
まあ自分からこういうこと話さないから、仕方ないか。
「タイプかあ、
...今まで好きになった人の共通点は、爽やかで優しい雰囲気を持った人だったかな」
たしかそうだった。
わたしは今まで何度か人を好きになってきたけど、
そのなかでもただ一人だけは、自然と鮮明に脳裏に浮かんだ。
ーーのとき付き合っていた、ーーくんのことを......。
「彩ちゃん...?」
葵ちゃんのわたしの名を呼ぶ声にハッとした。
「あ、ごめん、ぼーっとしちゃって...」
「...彩ちゃん、もしかして...」
目の前の葵ちゃんは察しのついたような顔をしている。
そんなに顔に出ていたのだろうか、わたしは。
わたしは小さくコクリとうなずいた。
「...実は、忘れられない人がいるんだよね...」
初めて人にこんなことを話した。
葵ちゃんだから言いたいと思った。
「...そうなんだ。中学校のときの人?」
「...うん。でも、いろいろあって、別れちゃった」
いろいろっていっても、理由はひとつなんだけどね......。
しかも、その理由っていうのはーー。
「忘れられないって...今でも好きなの?」
「...ううん。今は、もう思い出として心のすみにいるかんじかな」
“思い出”なんて、綺麗なものみたいに...絶対わたしが言ったらいけないのにね......。
「そっかあ。彩ちゃんが好きになる人だから、素敵な人なんだろうね」
「うん...」
あんなに人を好きになったことはなかった。
忘れられないのは、消化不良だから...というのもあるけど、
いい思い出として、ずっと心に残しておきたいんだ。
「......暁もさっさと素直になればいいのに...」
“彼”のことを思い返していると、
葵ちゃんがなにかつぶやいた。
「え?」
よく聞き取れなかった。
「ううん、なんでもない!もうすぐチャイム鳴るよ」
「ほんとだ!」
時計を確認したわたしはあわてて行ってなかったお手洗いを済ませて、
それから数学の授業に専念した。