もう。どうしてこう、人前との態度が全然違うわけ!?
 恨めしい気持ちでいると佐久間さんも同じようなことを思っていたみたいだ。

「こんなこと守谷達の前じゃ出来ないだろ?」

「それは……そう、ですけど。」

 私はみんなと青春バージョンの方をキャッキャ言いながらやってみたい。
 そんな私の心を読んだみたいに佐久間さんは言う。

「俺が守谷達の前ではしゃぐ姿が想像できるか?」

「それは……そう、ですけど。」

 頭を引き寄せられて胸元に置かれた。
 そして優しく撫でられる。

「続けて同じセリフ言ってるぞ。
 心から思ってないんだろ。
 俺……………も、尽力は、する。」

 尽力って、努力してくれるの?
 そう言われて守谷さんとはしゃぐ佐久間さんを想像してみた。

 ………ものすごく似合わない。

「ふふっ。無理しないでください。
 やっぱり佐久間さんは佐久間さんで。」

 普段も普通には接して欲しいけど、はしゃぐ佐久間さんは私も望んでいなかったみたいだ。

 笑われて不満そうな佐久間さんが私の顔を覗き込むようにキスをした。

「お前といると所構わずキスしたくなるから困るんだ。」

「えっと……それは………。」

「守谷達の前でしてみてもたまにはいいんじゃないかって思う時がある。」

 いたずらっぽい笑みを向けられて、佐久間さんならやりかねない。

「待って!待ってください。それは……。」

「冗談。」

 クククッと笑う佐久間さんが私の頬をつまんで笑った。

 ムーッと不満な声が出てますます笑われる。

「佐久間さん!」

 文句を言おうと声を上げると意地悪な、それでいて甘い言葉をかけられた。

「いい加減、2人の時くらい悠斗って呼べよ。
 じゃないといつまでもあんただ。」

「そんな………。」

 よりによって今日はイケメンの佐久間さんだ。
 寝癖もついてない誰もが振り向く完璧な男前。

 モジャの見た目でもイケメンでもどっちも佐久間さんで、どっちの佐久間さんでも佐久間さんに違いないんだけど……。
 でも、やっぱりこっちの佐久間さんは緊張する。

「由莉。」

 甘く呼ばれてくすぐったい。
 頬を撫でられ促されてもどうしても恥ずかしい。

 それでもなんとか消え入る声でやっと口にする。

「悠斗……さん。」

 伏せ目がちに言ってみても反応が無い。
 聞こえなかったのかな?と、佐久間さんを上目遣いで伺ってみた。

 片手で口元を覆った佐久間さんは照れたように「お前の呼び方、反則」と耳を赤くさせた。

 照れた佐久間さんは可愛くて、なのに今日の佐久間さんは照れても容赦なかった。

「もう1回、呼んで?」

 甘えるように催促されて余計に恥ずかしい。

「もう呼べません!」

「呼んでくれたら雨が好きになれそう。」

 狡いよ。
 そんなこと言われたら言わざるを得ない。

 外は雨が降っている。
 2人を祝福するような雨が。