「浜島さん。
 今度の土曜夕方から空いてないかしら。」

 突然の頭上からの声に目を白黒させて顔を上げるともっと目を白黒させることになった。
 Aランチのメイン、豚のしょうが焼きを食べようって気持ちが一点集中してたから余計に。

「コンパがあるんだけど、どうしても1人足りなくて。」

「はぁ。」

 話しかけて来たのは2人組で名前もうろ覚えなくらいの…小田さんだったか、あと北川さんだったかな。

「どうせ暇でしょ?」

 クスクス馬鹿にしたように笑う2人に力なく伝えた。

「私、彼氏いるので。」

「え。そうなの?ヤダ〜見えない〜。
 でも大丈夫よ。
 ただの飲み会って思えば。」

 ヤダってどういう意味よ。
 見えないって何。

 私の疑問をよそに、まだ執拗に誘ってくる2人を沙羅が睨みつけて冷たく言い放った。

「由莉は彼氏いるって言ってます。
 だいたい由莉が行く必要ないでしょ?
 あなた達の周りにたくさん行きたい人はいますよね?」

 沙羅の鋭い睨みと言葉にさすがに降参したみたいで、肩を竦めて離れていった。

 離れぎわに「あの子なら引き立て役に丁度いいと思ったのにね〜」「本当、残念〜」と話しながら。

「あいつら、わざと聞こえるように言ってる!」

「いいって沙羅。
 加勢してくれて嬉しかった。」

 今にも2人を追いかけそうだった沙羅が少しだけ微笑んで、もう一度座り直した。

「だって前にあいつら由莉のこと…。」

「もういいって。ね?」

 私に促されて沙羅は小さく「ごめん」と言った。

 前にトイレで私のことを噂していた人達。

「浜島さんって何をやらしてもダメなのにいつもヘラヘラしてて能天気よね。」

「たいして可愛くもないのにね。」

「本当〜。
 どうやってこの会社に入ったのかしら。」

 うちは見栄えがいい人か、仕事の出来る人を採用するなんて噂があるせいでこういう陰口は後を絶たない。

 沙羅はサラダのトマトをフォークで突きながら控えめに質問した。

「由莉、あの彼とは上手くいってるの?」

「うーん。どうだろう。」

 私は目を泳がせて俯いた。

 彼氏はいる。
 と、思う。

 もう何週間も会えてないけど。

「ま、元気出して。
 由莉のせっかくの好物が冷めちゃうぞ。」

「あ、うん。」

 豚のしょうが焼きを口に頬張った。
 あんなに食べたかったのに砂を噛んでいるような気がした。