「ギリギリ間に合って良かった〜。」

 お昼休み。
 沙羅と食堂でAランチを囲んでひと時のリフレッシュだ。

「遅かったよね。
 遅らせたのに遅刻したら絶対に黙ってないよ。
 うちの課長。」

 ネチネチ粘着質の課長の説教を思い出して身震いする。

「だって、通勤中にすごいもの見ちゃったんだもん。」

 朝の様子を最初から最後まで説明すると沙羅は吹き出した。

「おばあさんに席をねぇ。
 仙人も血の通った人間だったんだね〜。」

「でしょ?でしょ?」

「ま、照れてたかどうかの真相は定かじゃないけど。」

 沙羅は長い指で添え合わせのパスタをクルクルとフォークに巻き取りながら探偵さながらに意見した。

「そんなことないよ。
 見たもん。」

「だって離れてたんでしょ?
 照れてたのか、怒ってたのかも分からないじゃない。
 だいたい本当に赤かったのかも怪しいし。」

「そ、そうだけど…。」

 一生懸命、反論しても沙羅には到底かなわないんだよね。
 なんせ万年、企画ボツの私と沙羅じゃ…。

「ま、仙人とは部署も違うし。
 関わることはないんだから。
 なんせ由莉の天敵だし?」

「もちろんそうだよ!
 敵に情けは無用だよ。」

「何それ。」

 沙羅は楽しそうに笑うけど、少し心に引っかかっている。
 あの時の照れたような素ぶりのモジャが…。

 少しだけね。