力強く扉を開けるといつもの定位置にある頭がこちらを伺って、また元の位置に戻った。

 資料室のいつもの昼寝場所。
 再び目を閉じた佐久間さんに宣言するように言った。

「もう逃げるのやめました。」

 扉を開けた時に気怠げに一度だけこちらを見ただけで、今も目は閉じて開けもしない。
 それでも続けた。

「私、付き合ってない人の家に行くほど軽くないって言いましたよね?」

 質問しているのに無視だ。
 そんなの想定内で、構わず続けた。

「それでも…今日、佐久間さんのマンションに行ってもいいですか?
 というか行きますから!」

 言い放って勝手に行くつもりだった。
 それなのに佐久間さんは目を閉じたまま口を開いた。

「来ない方がいい。」

 こちらを見もしない冷たい声にたまらなくショックだった。

 前は「マンションに来ないか?」って言ったくせに。
 沈んでいく気持ちはどこまでも沈んで底辺を彷徨って浮上できずにいた。