「由莉ちゃんはあいつのこと懲り懲り?」

 今日の曇り空みたいに気持ちが晴れなくて
お昼を食べた後に沙羅と別れて1人ぼんやりできるところを探した。
 屋上に来てみたけれど思いのほか賑わっていた屋上で守谷さんに会ってしまって話しかけられた。

 あいつ……は、もちろん佐久間さんのことだ。

「懲り懲りというか……。
 そうですね。懲り懲りです。」

 最初から、印象は最悪だった。
 その後も散々振り回されたのに最後には「出て行け」という感じで突き放された。

 正直、もう関わりたくない。

「あいつはさ。
 見た目があぁだしお喋りな方じゃないから。
 思ってた人と違うって心ないことを言われたりして、余計に話さなくなってね。」

 守谷さんは佐久間さんの古くからの友人のようだ。
 あの愛美さんとも知り合いのようだった。

 佐久間さんの言っていた「女は上辺しか見ない」はそういうことだったんだろうとは思っていた。
 だからってもう私には関係ない。

 守谷さんは昔話をするみたいに続きを話した。

「一時はひどくてね。
 あいつと噂になった彼女が虐められたり、相当参ってたよ。
 だからあいつは女の子に近づくことに尚更慎重になった。
 で、あの事件だ。」

「………事件?」

 物々しい雰囲気に息を飲んだ。

 佐久間さんなんて関係ない。
 そう思うのに、そう思いたいのに、目を閉じれば今も佐久間さんの姿が思い浮かぶ。

 聞かない方がいいことや、知らない方がいいことだってあるのは分かってる。
 けれど……やっぱり佐久間さんのことが知りたかった。

 守谷さんは肩を竦めて微笑んで事件については触れなかった。

「由莉ちゃんに会って変わろうとしたのは本当だと思うよ。
 ただ、だからこそ失うのが怖くなったんじゃないかな?」

 体は勝手に動いていた。
 佐久間さんのことであれこれ悩むのはもう嫌だった。