昨日に今日でこの仕打ちはないんじゃないかな。

 今朝、急に電話があった。
 それを思い出すだけで………。

 泣き腫らした顔を俯かせて出社時間の混んだエレベーターで泣き出すものかと唇を噛んだ。

 やっとエレベーターが止まって人の流れから外れトイレへと向かう。

 こんな顔じゃどうにもならない。
 トイレに駆け込んだところでどうにかなるってものでもないけど。

 トイレへ入る一歩手前で腕を引かれた。
 体がよろめいて危うく転びそうになる。

「打ち合わせの申請した。
 このまま来るんだ。」

 弱っている時に会いたくない人物の声。
 けれど職場に行くわけにも行かず、引かれるまま佐久間さんの後に続いた。

「打ち合わせって資料室で、ですか?」

 無言の佐久間さんに質問しても答えてくれなかった。
 いつもの資料室。

 佐久間さんはただ座ってそっぽを向くばかり。

 なんだか狡い。

 1つ離れた席に腰を下ろしてため息を吐いた。

「私、薄っぺらいってよく言われるんです。」

「食わないからだろ。」

 頬づえをついた佐久間さんが気の無い感じで突っ込んだ。

「違います。
 悩みが無さそうって方で、です。
 いつもヘラヘラしててって………。」

 自分で言って胸が痛い。
 悩みがないわけじゃないのに。

 そう言われると幸せに生きてますって顔しなきゃいけない。

 勝手に涙が頬を伝って、それを拭った。

「恋人に振られちゃったんです。
 電話でですよ?
 由莉は俺じゃなくても誰でもいいんだろ?って。
 誰でもいいわけじゃない。私……。」

 彼のことを心の底から愛していたかと聞かれても即座に頷けるほど可愛くはなれない。
 
 だからって私なりに彼のこと大切で……。