無愛想な仮面の下

 日常化した佐久間さんの観察は珍獣の生態を調べるみたいで楽しかった。

「ねぇ。君さ。
 悠斗をよく見てるよね。」

「はい?」

 突然話しかけられて素っ頓狂な声を上げてしまった。
 相手の人はクスクス笑っている。

 悠斗……佐久間悠斗。

 そういえばモジャってあんな風貌なのにイマドキの名前なんだよね。
 そんなことを思いながら話しかけて来た人をマジマジと見つめた。

 確か営業の守谷啓介。
 イケメンだってみんなが噂してた。

 イケメンかもしれないけど、軽い感じがしてちょっと私は苦手。
 そんな人が私に…というより佐久間さんに用があるのか。

「私が誰を見てようと守谷さんには関係ないじゃないですか。」

 この人も佐久間さんが仕事できるのが気に入らない人なのかな。

 私の返答の何が面白かったのか、楽しそうにクククッと笑って何故か私は壁際に追い込まれた。

「あいつ色々あってさ。
 女に臆病になってて。」

 色々あって、女に臆病?
 思わぬ台詞に守谷さんをマジマジと見つめた。

「だから俺にすれば?」

「はい?」

 何がどうなって、そうなるのよ!
 理不尽な口説き文句なのに追い込まれて逃げ場がない。

 整った顔立ちが近づいてきて、この人、誰でも自分が迫れば喜ぶと勘違いしてるんじゃない?と腹立たしくなった。

 もう少しで平手打ちしようかというところで、守谷さんの体が大きく遠ざかった。

「いい加減にしろ。」

 守谷さんの肩を強く引いたのは佐久間さんだった。
 背が高いせいで威圧感は半端ない。

 それなのに守谷さんはクククッと笑っている。

「なんだよ。
 せっかく俺がランチにでも誘うつもりだったのによ。
 悠斗、代わりに行ってこいよ。」

 勝手なことを言いたいだけ言った守谷さんはどこかへ行ってしまった。

 何?この2人、仲がいいわけ?

 2人の間に流れてるのは、どちらかといえば気心知れた間柄という感じだった。

「行くぞ。」

 私を一瞥した佐久間さんが踵を返して歩き出した。

「行くって、え?」

 急いで追いかけても疑問に対する返事はもらえなかった。

「あんたは隙だらけだ。」

 不機嫌そうな台詞にほんの少しだけ胸が高鳴った。

「私のこと初めて見てくれましたね。」

「は?」

 倍増した不機嫌さにもめげずに返した。

「だって私が隙だらけなんですよね?
 他の誰でもなく。」

 この人に認めてもらえたような気がして何故だか嬉しい。
 本人はご立腹のようだけれど。

「……チッ。知るかそんなの。」

 わざわざ覗き込まなかったけど、きっと赤い顔してるに決まってる。
 もっとこの人のこと知りたい。そんなことを思っていた。