すっかり企画にも佐久間さんとの会話にも行き詰まっていると足音が近づいて私の座る席の斜め前に座った。

 やっぱり背が高い。
 そしてモジャモジャ頭だ。

 佐久間さんはため息を吐いてから振り返った。

「で、何に悩んでる。」

 気怠げなのは相変わらずで、けれどやっぱり優しいのかもしれない。

「あの。出会いについて。」

「馬鹿くせぇ企画。
 よく出す気になるな。」

 そう言いつつ、募集の紙を手に取って目を通している。

「で?あんたの実体験とかは。」

「じ、実体験ですか!?」

 出会いってなぁ。なんだろう。
 乏しいなぁ。そういう経験が。

 なんていうか……。

「あ!」

「なんだ。何か思い出したか。」

 優しく見つめられた気がして心臓がひっくり返りそうだ。
 ダメダメ。今は企画に集中。

「出会いと言えば一応は出会いじゃないですか。
 あの時に佐久間さんの社員証に私の髪が絡まったやつ。」

「は?」

 もう何度目になるのか分からない呆れて不機嫌な声にたじろぎつつも訂正する。

「あの、違うんです。
 少女漫画的な展開は、あんな感じなんです。
 私だってどうせならイケメンと…。
 あ、いえ。すみません。
 佐久間さんで光栄です。」

 ギロリと睨まれて「悪かったな。俺で」と言われ、あぁ余計なことばっかり…と反省した。

「で?それをどうデザートにするんだ。」

 もう仕事モードの顔に変わっている佐久間さんに、やっぱりこの人すごいなぁと尊敬の念を抱いた。

「絡んだ…バームクーヘンはどうでしょう?
 あの生地を剥がしていくのが楽しくないですか?」

「夏だぞ。」

「んーゼリー?いっそアイス?
 でも絡ませて、そのままくっついて取れなくなっちゃったり……。」

「そこは俺の腕の見せ所ってことだろ?」

 佐久間さんは口の端を上げて笑った。
 開発者として腕が鳴ると言いたげで頼もしい。

 口の端に浮かべた笑みでも初めて見た顔だったけど、声を上げて笑ったり、ましてや微笑んだり…そんな顔はするんだろうか。

「ありがとうごさいました。
 なんとか形になりそうです。」