静寂がしばらく2人の間に流れた後にモジャがぽつりと呟いた。

「閉じ込められた。悪い。」

 モジャの言葉が理解できなくて固まる。

 閉じ込められた?
 え?どういうこと?

 悪いってごめんってこと?
 モジャが悪いの?

 何度か疑問を反芻してみたけれど自分では解決できずにモジャに投げかけた。

「どういう意味ですか?」

 もう一度、大きなため息を吐かれ、馬鹿にされたような気分になって腹立たしかった。

 すみませんね。理解力に乏しくて!

「こんな時間に資料室を使う馬鹿はいない。
 守衛の見回りが鍵を閉めた。
 いつもなら俺もこんな時間まで居ない。」

 自分のこと俺って言うんだとか、こんなに長く話せるんじゃないとか、どうでもいいところばかり感心していた。

「じゃ別にモジャ…いえ佐久間さんが悪いってことにはならないんじゃないですか?」

 またため息を吐いて頭を抱えた。
 この人、ため息吐き過ぎだ。

「俺は雨男だ。分かるか?」

「雨…男ですか?」

 それが今回となんの関係が?
 そう思ったけれど辛抱強く待つことにした。

「俺がここぞと思う時は必ずと雨が降る。」

 まぁ。雨男っていうのはそういうイメージだけど。
 モジャは少し考えるようにしてから続きを口にした。

 眼鏡越しに見えた瞳はあの時の雨の瞳と同じだった。
 悲しみを映して揺れている。

「同じように俺に誰かが関わるとそいつは必ず不幸になる。」

 不幸…。
 言葉の重みに驚いて言葉を失った。

 だからここに閉じ込められたと言いたいの?
 私が、モ…佐久間さんと関わったから。

「そんなの。そんなわけ…。」

 悲しみを宿す瞳は吸い込まれそうなほど綺麗だった。
 何かに気付いたように佐久間さんは目を逸らした。

「とにかく。
 しばらくここからは出られない。」

 背を向け、どこかへ歩いていく。
 閉じ込められた2人。
 2人しかいないのに側には居てくれない。

 それは…私の為。

「あ、あの!
 私は晴れ女です!」

 去っていく背中に向かって訴えた。
 自分でも何を言ってるんだろうってことを。

「ここぞ!って言う時は必ず晴れるんですよね。
 それに、私がキューピッドしたカップルってすぐに結婚するんです。
 だから、あの。」

 背中に訴えかけてみても止まってもくれない。

「だから!だから…。
 佐久間さんが呼んだ雨雲くらい私が吹き飛ばしてみせます!」

 立ち止まってくれない佐久間さんから「お前、馬鹿だろ」って声がした。
 それは少し呆れて不機嫌で、けれど温かい気がした。