シルフィンと話を弾ませていたら
壁際に白いグランドピアノを見つけた。

そっと近寄ってふたを開いて鍵盤を触る
ポロンと綺麗な音が響いた。

残念ながら私は弾けない。
でもピアノの曲は大好きで、ひとりで演奏会を聴きに行ったり、CDを聴いているので頭の中で音楽は多少のアレンジはしてるけど、好きな曲は一曲丸々覚えているから……これは……いけるかも。

「お願いがあるのシルフィン!」
私はシルフィンの魔法の力にすがりついてから、アレックスの姿を捜した。

今日の主役を捕まえるのに時間がかかったけれど、どうにかピアノの前に連れてきた。

「私からのプレゼントです」

私はピアノの前に座り
シルフィンにかけてもらった魔法の指でピアノを奏でる。

曲はドビュッシーの『月の光』
柔らかくて優しくて流れるような旋律。
青い静かな夜空に浮かぶ月が城を照らす。

難しくて絶対弾けない曲だけど
魔法をかけてもらった指は鍵盤を踊る。

美しくて
切なくて泣きそうになる曲。

どうか神様
アレックスとフレンドの命が助かりますように
魔王が襲って来ませんように。

この国がこのまま
幸せに過ごせますように。

想いを込めて最後まで演奏すると、こんなに沢山の人がいるのに物音ひとつない静寂に包まれている。

どうしたの?
私が鍵盤から手を離した瞬間、驚くくらいの拍手が起こった。