そうして、準備をしていたこの日。
兄はいつも通り十九時すぎには帰宅した。

先に夕飯を食べ終わっていた私は、帰ってきた兄をリビングで宿題をしつつ迎えた。

「おかえり、お兄ちゃん。お疲れ様」

そう、ニッコリ迎えれば兄もにこやかに返してくれる。

「おう、ちゃんと宿題やってて偉いなあ。俺は柔道ばっかだったのに」

確かに、兄は柔道命な感じだった。
勉強の方は、そこそこと言ったところ。
そんな兄の妹の私は運動はからっきしなのに対し、勉強はできる方だ。
ただし、文系特化タイプだけれど。

「宿題だけでは終わらないけどね。今年は受験生だし」

そう、忘れることなかれ。
私、現在高校三年生。
冬には試験本番の灰色受験生である。

「なんだ、行きたいとこ難しいのか?」

兄は冷蔵庫を開けて麦茶を飲みつつ聞いてくる。

「難しくはないし、このままの成績でいれば指定校推薦貰えると思う」

私の返事に、兄はん?と不思議そうな顔をして言った。

「受験が問題じゃないなら、なんでそんな眉間にしわ寄せて悩ましい状態になってるんだ?」

この兄、脳筋な用でいて警備員である。
人のことを観察する眼はあるのだ。

「お兄ちゃん!!これあげるから、私の話を聞くのよ!」

言うなり、私はホールの状態のシフォンケーキを突きつけて言った。