火事場の王子様

「おい、刈谷さん?」

「んー……」

直帰の予定だったが、明日の書類の確認をと会社に戻った芳晴は『寝てるのか。器用なやつだな…』と、キーボードに手をかけたまま、頭を垂れて眠っている聡美を見ていた。


もうすぐ終電も無くなるし、この『S』だらけの画面もどうにかしないとな。未だに『S』のキーにかかった手をずらし、聡美の肩を揺すった。


「終電なくなるよ。起きて」


うわぁっと仰け反ると


「あ、お疲れ様です」と聡美は頭を下げた。


「結構寝てた?全画面『S』だけど。もう終電無くなるし、明日にすれば?」


画面を見て、聡美は恥ずかしさに俯き小さく「そうします」と言ってデスクを片付けた。


車だから駅まで送る、という芳晴の言葉に甘えることした。

「じゃ、お疲れ」と片手を挙げ、走り去る車を少し眺めてから改札を通った。




「あ、おはようございます。珍しくギリギリですね。」

「うん、おはよ。」

「何か嫌なオーラ出てます」

「うん、おはよ。ちょっと寝不足~」

と言いながらデスクに座り、昨日の『S』と闘い始めた。

でも、聡美の負のオーラは寝不足だけが原因ではない。

疲れすぎていたのか、今朝は消防隊員さんに会うこともなく起床し、モチベーションが上がらない聡美は今日もダラダラと残業へと突入するのだった。