(俺は自分の心の謎を解かないと決めた。けど………やっぱり止める。俺は蓋をした箱を壊す)

決して表には出さない。他の感情ならバレてしまうだろうが、この気持ちだけは、探偵の彼女にも気付かせない。

彼女の過去を知るその日まで。

(俺は、お前が好きだ。けど、お前を困らせるような真似はしない。お前と俺自身に約束する)

認めてしまえば、案外楽なものだとウィルは思う。

そんなウィルの思いに気付かないアマネは、心に葛藤を抱えていた。

(……私の過去を知った君がどうするのか、それを知るのが少し怖いです)

自分と言う人間が、どんな存在か。アマネはまだ打ち明けられない。

アマネは、他の人間から向けられる感情に無関心だった。別に、他人のことがどうでも良い訳ではない。

どうでも良かったのだ。ウィルに出会う前のアマネは、他人が自分を見下そうが、罵倒しようが関係なかった。

見下されるのも、罵倒されるのも、彼女は慣れていた。慣れすぎていた。

生まれた時からずっと。

けれども、ウィルと出会って初めて怖くなった。彼は純粋な心を持っている。相手を思いやることも、信じることもできる。

太陽みたいだと、アマネは思った。彼の光は、アマネには時々眩しく、目を背けたくなる。

それでも、目を反らせないのは、何故だろうか?

(約束します。いつか、私は私の罪を君に話します)

自分の過去を聞いて、彼が何を思うのかは分からなくとも、その結果彼が自分のもとから去っても。

(……っ……また、ですか)

不意にズキンと、腹部が傷んだ。不安になると、時々痛む。忘れるなと言われているように。

アマネはまた、左耳のピアスに手を伸ばした。

叔父の残したピアスが、アマネの恐怖を溶かしてくれる気がして。