ふとんくんはあれから、このお店の雰囲気が気に入ったのか、週に1度足を運ぶ。
会うのはこれで2回目だ。
周りのみんなが私の名前を呼ぶ為、ふとんくんも覚えたらしい。
物覚えが良い…。
「今日もお店のお手伝い?偉いね」
着替え終わり、頼まれた飲み物を運ぼうと歩いていると、案の定ふとんくんの席にたどり着いた。
お母さんはふとんくんが頼んだ物を大体私に運ばせる。
ライブの日、寝る前につい、お母さんに今日来たのはふとんくんだと口を滑らせてしまい、今に至る。
「まぁ…ちょっとした親孝行です」
そう言い飲み物をふとんくんの近くに置く。
親孝行なんて、嘘に近い。
少しでも良く見てもらいたい。オタクだと気付かれたくない。
そんな思いでつい言ってしまう。
「そっか、親孝行か。偉い偉い」
ニコニコ笑いながらふとんくんは私と話してくれる。
「今日はパソコン持ち込んでるんですね」
つい口が滑ってそんな事を聞いてしまった。
絶対お仕事関係の奴だよ…。
「あぁ、うん。作業が家だと進まなくてね。気分転換にここ来ちゃった」
「そうなんですか」
来ちゃったって言うの、可愛すぎる…
など内心思いながらなるべく顔に出さないようにポーカーフェイスで話を続ける。
「そういえば、お母さんから聞いたんだけど、あの時誕生日だったんだって?」
「えっ…あ、はい」
突然何を言い出すのかと思ったら、誕生日の事だった。
「遅れちゃったけど、誕生日おめでとう」
そう言い微笑むふとんくん。
「………ありがとう…ござい、ます…」
やばいやばい。
顔がにやけてしまう。
私は今日死ぬのでしょうか。
抑えろ、私。
「そ、それじゃ、邪魔しちゃ悪いので失礼しますね」
そう言ってスタスタと立ち去る私。
背後から
まだ居てもいいのに。
なんて言葉が聞こえたのは
きっと幻聴。