3年後

 彼女達の母様の結婚披露をかねたパーティー会場で、アナスタシアはさっきから彼女と視線を合わせては笑う青年にうんざりしていた。母の再婚で今日から貴族の娘となった彼女達だったが、所詮は市井で育った庶民の子だ。生まれながらの貴族様のようには振る舞えるわけがない。それに貴族や王族は嫌いだ。

 だが、せっかくの結婚披露パーティーで、母様とそして彼女達一家を救ってくれたトレメイン伯爵に恥をかかせるわけにはいかない。アナスタシアは顔に作り笑いを貼り付かせ、精一杯の優雅な所作で来賓達に挨拶して回った。
 襟の大きく開いたドレスは肩が凝るし、優雅に見えるゆっくりとした動作は意外と足腰が疲れる。彼女は一秒でも早くパーティーが終わることを祈っていた。


 4年前のあの日、城に呼び出されたアナスタシアの父は目に怪我をして帰ってきた。それをきっかけに父の視力は夕日が落ちるような早さで落ちてゆき、あっという間に仕事ができなくなってしまった。

 父の工房は、父の高い技術と母のデザインセンスで成り立っていた。どちらが欠けても続けられない。注文途中のドレスは満足に仕上げられず、工房はあっという間に廃れ、職人は去り、借金だけが残ってしまった。母と姉は食べるために他所の工房に働きに出た。仕事もできず、自由に出歩く事すらできなくなった父は、ふさぎ込んで自室に閉じこもり、食事もあまり取らずにいた。自宅で父を看るのはアナスタシアの仕事だったが、事故の日、父から目を離したアナスタシアを母も姉も責めなかった。