ある日、授業の終わりに先生が唐突に言った。
「アナスタシア様はフレデリク様をご存知なのですか?」
フレデリク。あれ以来会ってはいないが、気にかかっていた。アナスタシアの数少ない貴族の知り合いだ。
「あ、、はい。」
「ではこちらをどうぞ。」
手紙が手渡される。
「お手紙をお渡しすることに関して、お父様お母様のご了承は得ています。お返事を出される時はお父様とお母様にご相談してくださいね。独り勝手にお返事などされませんよう。貴族の子女の嗜みです。」
そうなんだ。ってか、手紙を受け取るのにも親の承諾がいるの?

 渡された手紙を眺める。シンプルだがキメの細かい真っ白な紙。黒々としたインクに美しい文字。高級すぎる手紙に少し物怖じする。しかも手紙には彼女を家に招待したいと書かれていた。
 それでもアナスタシアはフレデリクと話したいと思った。この家に来てしばらくは街に出ていたが、職場を失った今はそれも叶わない。なんとか外出してみても、皆仕事に忙しく、なんとなく長居できずに話も途絶えがちだ。最近は家事や勉強で忙しくなり、以前の知り合いとの音信はほとんどが途絶えてしまった。かと言って新しい知り合いができた訳でもない。
 ドリセラは工房に居場所を見つけた様子で毎日楽しそうに出かけて行く。エラは良い子なのかもしれないが、どうも彼女とは焦点がずれている。当然だ。誰が悪いわけでもないが、合わないものは合わないのだから仕方ない。