「アナスタシア」母がアナスタシアを呼んだ。
「はい。」
「女中に暇を出しました。明日から、屋敷の掃除と洗濯を貴女にお願いしたいの。それから料理は私がします。貴女も手伝って。」
「はい。」

 屋敷って、結構広いけど。。高価そうであまり触りたくない調度品の数々を、アナスタシアは心中に思い浮かべるが、声には出さない。しかも料理は母さんがするという。
「下男はいるから、買い物や外の掃除は下男に頼みましょう。」
「はい。」

「それから、」まだあるのか。
「エラの家庭教師の先生に貴女も勉強を見てもらいなさい。」
「え~」それは結構いやかも。
「貴女が将来どうするかは、おいおい話し合いましょう。」
「。。。。」

 確かに、現段階ではアナスタシアだけが中途半端だ。市井に戻るならそろそろ見習いで働き始めなければならない年齢だ。でなければ手に職がつかない。だが、城下は景気が悪くアナスタシアはなかなか職を得られずにいた。

 町にいた頃、彼女は近所の食堂を手伝わせてもらっていた。幼いなりに熱心に仕事をし、様々なアイデアを出す彼女を女主人は可愛がってくれていたが、客は減り続けた。彼らは昨年とうとう店を閉め、郊外の町に移っていった。次の職が見つからずに屋敷で過ごす間に、アナスタシアも女中の代わりくらいは務まるようになっていたが、この屋敷で女中奉公を続けるのはなんだか変な気がする。女中ならば給金が出るが、彼女の場合はどうなるのだろう?しかも勉強もしなければならないという。意味がわからない。