塁がもっと先輩のことを知りたい、と思うようになるまでに時間はかからなかった。

週に一回、化学室での撮影会。

グラウンドを一緒に歩きながらの撮影のこともあった。

シャッター音の間に、他愛無いおしゃべり。

塁はそれを心から楽しんでいる自分に気づいていた。



シャッター音をききながら、先輩には私がどう見えているのかな、何て思う。

真剣な表情。

レンズ一枚隔てた向こうと、こちら側。

先輩には真剣に取り組める写真、というものがあるのに、私には何もない。

高校に入って、入った演劇部は廃部寸前。気が向いたときに一人、発声練習をするだけだった。

一人では舞台に上がるチャンスはないのだ。

そう思うと自分には何もない。空っぽの人間のように思えてきた。


ふと思いついて聞く。


「先輩は、なんで写真を始めたんですか」


「んー」


珍しく手を止めて圭は視線を天井に向けた。

目線をあげるのが、考え事するときの癖のようだ。


そんな小さなことを知るのでもなぜか嬉しくなる自分がいた。