「その女性が貸した傘って……」
「水玉の、折り畳み傘です」
園原くんが、鞄から折り畳み傘を取り出す。
見覚えならあった。
わたしは昔から水玉が好きだった。
園原くんに渡した手紙も、書き直す前の最初に用意したものも、色違いの水玉だった。
「あの日。傘を貸してくれてありがとうございました」
「……あの子が、園原くん?」
「はい。思い出してくれましたか」
「面影、ないね。なんか、ほんと、全然違うからわからなかったなあ。それに比べて、わたしは……変わってなさすぎるよね」
「そんなことないです。可愛い人だなって思ってたのに。……綺麗に、なりましたよね」
「へ……」
「それに、初恋の女性のことわからないわけないです」
「……え……」
いま。
初恋……って、言った?
「声をかけてもらったとき。手紙を受け取ったとき。嬉しくて、泣きそうになりました。帰って何度も読み返しました。ぬくもりのある手書きの文字から、あなたの素直な気持ちが伝わってきました。……男として好意を抱かれていると知り、舞い上がりました。ただ、同時に、ものすごく焦りました。年上だと勘違いされているみたいだったので。僕はあなたの思ってるようなやつじゃ、ない」
落ち着いた雰囲気。
伏せ目がちに本を読むときの、クールな横顔。
飾らないあなたに。
誰よりも目を引かれたって。
そういうこと、書いた。
……高校何年生ですかと。
聞いてしまった。
――余計なこと、書くんじゃなかった。
よく知りもしないのに、見た目で感じたことなんでもかんでも書いて。
それが園原くんを困らせてしまったんだ。
「ごめんなさい。傷つけるつもり、なかった。園原くんみたいに雰囲気のある人って素敵だと思う。いくつでも」
「こんなのは作ってるだけで。背伸びしてるんです」
(背伸び……?)
「返事を書くのに時間がかかったのも、嫌われたくなくて、あれこれ悩んだからなんです。あなたがクールだと感じた男の正体は――さっき門の傍を通るカッコイイやつとあなたが目配りさせてるの見てとんでもなく嫉妬してしまうような――劣等感と独占欲の強いガキですよ」


