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叶い人選考会議から1週間が経ち、
仮叶い人が、
叶い人になった。


決定だ。


なんだか少しだけ店長がうろたえているように見えたのは、なんだったのだろうか。


相手に少し問題でもあったのか?

でも決定にはなったから大したことではないのだろうと思うことにした。




それでいよいよ、選考から漏れた大量のハガキをシュレッダーにかけて処理する段階になった。


それは副店長である俺の係だ。


一生に1度のお願いがたくさん詰まったハガキを一斉に紙くずにしてしまうのには抵抗があるけれど、仕方ない。

それを思うと、結構つらい係だったりする。


あまり気乗りせずにハガキ入れの引き出しを開けると、
この前見つけたハガキのことを思い出した。


この1週間、すっかり忘れてた。




・・・あれ?
たしかに俺、ハルカさんからのハガキ1番上に置いといたはずなのに。


ハガキがない。


ゴソゴソ少し焦りながら探すと、思っていたよりすぐに見つかった。



あった。


良かった。



・・・良かったって言っても、これ、どうするんだ?俺。


もう一度、じっくりハガキを眺める。



なぜか再び胸騒ぎがした。
この字の儚さが俺を駆り立てるのだろうか?
それともこのハガキで何かが変わるのだろうか?


店長に憧れて入った郵便局、そして叶い屋。

いつか、昔の店長がしてたみたいに自分一人で誰かの願いを叶えてみたいと思っていた。



・・・チャンス、なのではないか?


恋愛経験は豊富とは言えないがそれなりにはある。

恋愛相談になら、乗れるかもしれない。


やってみたい。
俺一人で、やってみたい。


気づけばそっとそのハガキを自分の胸ポケットにしまいこんでいた。



依頼人とそんなに接触しなければ、いいのではないか?とりあえず名前は聞かずに、俺も適当なあだ名ですませれば、大丈夫ではないか?


ひとりでお願いを叶えてはいけないなんて原則は叶い屋にはないけれど、
1年に1人しか叶えてはいけないという原則には今から俺がしようとしている行為は反する。



どうしようか?


仮にここで俺がひとりでハルカさんに接触したところで、
叶い人の大原則に
自分が叶い人になったことを言わないという原則があるから、
1年に1人という掟が破られたことを知るものは俺以外にはいないわけで、
バレることはまずないのだろうけども。




俺は1人でできるのだろうか?


叶い屋の原則、
引き受けた願いは100パーセント、必ず叶えるというものがある。


これを俺は守れるのか?



でも、やってみたい。


憧れの店長みたいに、
誰かの夢を叶えてみたい。





葛藤していると、ドアがガチャと開く音がした。


やばい。


俺は慌てて大量のハガキが入った引き出しを引き抜いた。



「ん?どうした、宇佐美。」


店長が少し怪訝な顔をした。


「なんでもないです、ちょっとぼんやりしちゃってました、今シュレッダーかけます。」


「そうか。それならいいんだ。よろしくな。」



店長はそれだけ言ってドアを閉めて出ていった。


危ないところだった。



・・・叶い屋の原則には反するけど、
やってみたい。


・・・やろう。