高桐先生はビターが嫌い。


…………


新学期初日の学校が終わると、あたしは校門を出て真っ直ぐマンションに帰った。

今朝の怪我のせいでしばらくはデートできないし、今日は大人しく独りでいよう。

そう思いながら、マンションに到着するなり、一応郵便受けを開けてみる。


…けど、何かが来ているわけもなくて。

ため息交じりで、また閉める。


そのままエレベーターに乗って最上階まで上がると、ふいに高桐先生のことを思い出した。


…たぶん、あのHRであたしがアイリだということが、バレてしまったと思う。

しかも今日、ずっと頬にガーゼ当ててるし。

かといって外すわけにもいかないから、今夜もし高桐先生が部屋に来たらもうアウトだ。

諦めて謝ろう。市川はああやってフォローしてくれたけど。

…何でかはわからない、けど。






「ただいまぁ」



ようやく最上階のいつもの部屋に到着して玄関のドアを開けると、あたしはそう言って靴を脱いだ。

だけどそう言って帰っても、独り暮らしの部屋から、誰かが出迎えてくれるわけも…なくて。

……あたしって、いつからずっとこうしてるんだっけ。

ふいにそう考えながらリビングまで足を運ばせると、そのままソファーにうなだれて目を伏せる。

そしてふと、思い返してみた。今から5年ほど前のことを。



『どうして一緒に暮らせないの?』

『お前も一人の方がラクだろ』


『一人の方が寂しいよ』

『お父さんは仕事が忙しいからな』


『それでも平気だって』

『安心しろ。金だけは毎月振り込んでおくから』



…違う。

そんなことを心配してるんじゃない。

あたしは…あたしが欲しかったのは…



『どうしたの?泣いてるの?』

『平気だよ。俺、傍にいてあげるから』

『ずっと二人でいようね』



この場所は、本当はあたしの答えじゃないのに。

知らないうちにどんどん…欲しい欲しいと求めてしまって。

気が付けば…もう、戻れなくなってた。