高桐先生はビターが嫌い。


「今日はどこに連れて行ってくれるの?」



コウ君が傍に来るなり、あたしはそう問いかけて彼の腕に寄り添う。

だけど…コウ君は少し黙り込んだあと、言った。



「あの、アイリ」

「うん?」

「ごめん。俺アイリに言わなきゃいけないことがある」

「…なに?」



コウ君はあたしにそう言うと、自身から、あたしを離す。

あたしはそんなコウ君の言葉に首を傾げるけれど、内心じゃ本当は薄々わかっていた。

…コウ君は本当に、彼女のことを大事にしているから。



「…今日で最後にしよ?」

「…、」

「二人でこうやって会うの」



そう言って、本当に申し訳なさそうな顔をするコウ君。

やっぱり、その話か…。



「…そっか」



あたしはそんな彼の言葉に、そう呟いた。

アイリとのことが彼女にバレそうなんだ。

するとコウ君がそう言うから、「だったら仕方ないね」とあたしはうつむく。


寂しい。

寂しいって、そんなフリをする。

けど、本当は面白いくらいに寂しくない。

そんな自分が嫌になる。

だって、自分の方が愛を知らない。

だから、愛のビターも、知らない。


だけど、素敵だと思う。

本命じゃないあたしに手を出すけど、結局は彼女さんの方が大事って。

逆にあたしを選んだりなんかしたら、引くかもしんない。

…なんて。

あたしが言える立場じゃないか。


その後は、コウ君と最後のひと時を過ごして。

寂しくない別れを告げた。