高桐先生はビターが嫌い。


あたしがそう思って、今日で何度目かわからないため息を吐くと、薬を片付けながら先生が言った。



「ほんと、毎度毎度誰かにいろいろされてるみたいだけど、いったい誰にやられてるの?」

「…それは、」

「日向さん頑なに言わないから、先生達はみんな心配してるのよ。いい加減言ったらいいのに」



先生はそう言うと、うつ向くあたしを真正面から見つめる。

“みんな心配してる”

ああ…その言葉だけで、何だか少し、元気が出たような気もする。

あたしは、ほんと、“心配されてる”っていうその事実だけで十分だから。

だから、また強がって言った。



「…平気ですよ先生。あたし、見た目ほど傷ついてませんから」

「うーん…でも、」

「それに、ほら。殴り返さないで頑張って耐えたあたしって、偉くないですか?」



そう言って、手当てしてもらったばかりの傷を、自身の人差し指で差す。

そしたら先生は、「あんまり我慢しすぎないようにね」と心配そうな顔をした。

でも…



「…先生」

「うん?」

「あの…1つだけ、ワガママ…言ってもいいですか?」

「どうしたの、急に。珍しいね」

「……一時間…いや、二時間だけ、ベッド借りたいです」



あたしはそう言うと、座っていたソファーから立ち上がって、勝手にベッドに腰かける。

あたしのそのワガママに、先生は一瞬考えたけれど、やがて「二時間だけだよ」とあたしのワガママを受け入れてくれた。



「…ありがとうございます」

「あ、でも先生はこれから体育館に行くからね。ほら、新しい先生方の挨拶と、入学式もあるし」



先生はそう言うと、早速ベッドに寝転がるあたしの周りを、カーテンで囲む。

…新しい先生方の挨拶。

実はそれを避けてのワガママだったあたしは、先生のその言葉に頷いたあと……やがて本当に眠りについてしまった。