高桐先生はビターが嫌い。


後藤先生はそう言うと、あたしの意思とか関係なく「おいで」とあたしの手を取る。

え、待って!まだ心の準備が…!

あたしはそう思いながらも、気まずさMAXでエレベーターの前に連れて来られるけど…



「……あれっ」



しかし、その時。

連れて来られたはいいものの、そこには…



「…アイツいねぇじゃん!」



もう既に、高桐先生の姿はなかった。

その代わりに、あたし達の目の前にあるのはもう1つのエレベーター。

このマンションにはエレベーターが2つあって、高桐先生はついさっき上がってきたエレベーターで、下に降りて行ったらしい。

…た、助かったような…残念なような…。

それでもあたしは思わずホッとしながらも、隣で「頑張ったら追い付くかな」なんて言っている後藤先生と一緒に、エレベーターに乗り込む。

一階に到着するまでの間、さっきまではまじまじ見る余裕がなかったけれど、今日から“教師”の後藤先生は、グレーのスーツを身に纏っていた。

…あ、そういえばさっき、後ろ姿だったけど、高桐先生もスーツを着ていたような…。

あたしがそんなことを思っていたら、後藤先生が言う。



「そういえば…奈央ちゃんって、彼氏とかいるの?」

「え、」

「や、なんかこの前、陽太がそれっぽいこと気にしてたから」



後藤先生はいきなりそんなことを問いかけると、ちらりとあたしに目を遣る。

…けど、正直何て言ったらいいのかがわからないな。

所謂、キープ男なら多数いるんだけど。

あたしは内心そう思いながらも、「いませんよ」と答えておいた。

でもね、高桐先生が気にしてたとか言うけど、高桐先生の方が彼女いそうだからね。

それにすっごくモテそうだし。


そんなことを考えながら後藤先生と雑談をしていると、やがてエレベーターは一階に到着した。