高桐先生はビターが嫌い。

そして安堵するあたしに、また高桐先生が言葉を続けた。



「あ…それと、手紙のことはごめん。もう知ってるかもしれないけど、女子高に異動になっちゃって、引っ越しとか準備とかでバタバタしてたら…返せなかった」

「そうですか。まぁなんとなくわかってはいましたけど」



あたしは高桐先生の言葉にそう言うと、やっと目の前のカフェオレを口にする。

するとそんなあたしを、しばらく黙ったまま高桐先生が見つめる。

しかしそこから数分後、やがて一息ついた高桐先生が再び口を開いた。



「っ…あのさ、」

「はい?」

「俺、奈央に話しが…あるんだけどさ」

「…、」

「あの…何だ?その…」

「…??」



あたしはカフェオレを飲みながら、高桐先生の次の言葉を待ってみるけど、彼は何故だか恥ずかしがってなかなか次の言葉を続けようとしない。

もしかして、「一緒に住みたい」とか言おうとしてんのかな。

引っ越したばっかだけど大丈夫なのかな。先生大変じゃない?

しかしあたしが次の言葉を先読みしてじっくり待っていたら、そのうち意を決した高桐先生がやっと言葉を続けた。



「あのー……俺たち、け、結婚…しない?」

「っ、!?」



…んん!?

予想外すぎるその言葉に、あたしは飲んでいたカフェオレを思わず吹き出しそうになる。

え、今あたし…何て言われたの?



「け…え、何て言いました?」



もしかして聞き違い?

しかしあたしがそう言って高桐先生を見つめると、先生は今度は顔を赤らめてゆっくりその言葉を口にした。



「奈央、俺と…結婚して」

「!!…」



突然のその言葉に、あたしは全ての言葉を一瞬にして忘れてしまうくらいの衝撃を受ける。

結婚って…え、結婚って言った?高桐先生が、あたしに?

まさか高桐先生が、そのワードを口にするほどの勇気を持ち合わせているとは思ってもいなくて。

…あ。じゃあ、ずっと手紙を返さなかったのって。



「ごめん。手紙、本当は、返そうと思ったら返せたんだけど、奈央が帰って来るって書いてあったのが嬉しくて。
今度はずっと日本にいるみたいだから、どうしても、ずっと一緒にいたかったの。
シンガポールにだって、会いに行こうとしたって言ったでしょ?
でも会いに行かなかったのは、いざ会ったらそこで二度と離れたくなくなるから。
で、どうしたら一緒にいられるかなって考えた結果、俺の中ではそれが“結婚”だった」

「!」

「でもなかなか勇気いるじゃん。“プロポーズ”だよ。
…さっきは、いざ言おうとしたら奈央が先に俺の気持ちを聞き出そうとするから、わざと意地悪なこと言った。ごめんね。意味わかんないとか、嘘。気持ちを引き出されてからのプロポーズは、ちょっとダサいかなって、思って」



高桐先生はそう言うと姿勢を正して、今度は、あたしの目を真っ直ぐに見据え、再度はっきりと同じ言葉を口にした。



「奈央。俺と結婚して下さい」