高桐先生はビターが嫌い。

『奥さんですか?』


しかし。

思い切ってそう聞こうとした次の瞬間…

それを遮るかのように突如玄関の方でそんな声がした。

…あ。この声…。



「あ、陽太帰ってきた」



た…高桐先生!?

梨華さんはそう言うと、パタパタと玄関の方に向かう。

う、嘘…本当に高桐先生?

すぐ戻って来る、と梨華さんから言われていたものの、実際に会える直前になるとまた再び心臓の音が激しくなる。

でも、いま「ただいま」って、「ただいま」って!

え、っていうか今更ながらに本当にあたし、ここに来てよかったのかな?

あたしはそう思うと、突如不安になって、思わず立ちあがった。

…ヤバイ。不安になってきた!



「…あれ?誰か来てんの?」

「そう。生徒さんだって。本当にモテモテなんだから」

「いや、女子高って若い男ってだけでめっちゃモテんだよ」



そして頭の中で静かに色々考えるあたしの近くで、高桐先生と梨華さんのそんな会話が聞こえる。

な、なんで部屋にいんの?って、引かれたりしないよね?

そう思って、とにかくどこかに隠れようと隠れ場所を探していると…



「おまたせー。日向さんだっけ。先生来たよー」

「…え、日向さん?」

「!!」



その時。

あたしが隠れる暇もなく、高桐先生と梨華さんがリビングに入ってきた。

…ああ、終わった。もう逃げ場がない。

本当だったら、「二人きりで」会うはずだったのに。

あたしは高桐先生がいる方に背中を向けていたけれど、やがて気まずさいっぱいでゆっくり振り向いた。



「…お久しぶりです」

「…」

「高桐先生、」

「…!!」



…なんとなく目を合わすことができなくて、そう言いながら先生の髪の毛を見つめるあたし。

先生はほとんど変わってない。ほんの少し大人になったかな?くらい。

手元は相変わらずのコンビニの袋。

少しだけ、体が震える。ずっと会いたかったその人が、今は目の前にいる。

喜んでくれるかな?先生…。

あたしがそう思っていると…ビックリしている様子の高桐先生が、やがて口を開いて言った。



「…日向さん…て、奈央…?」

「…っ」

「えっ…な、奈央!?奈央!?」

「!」



先生は確かめるようにそう言うと、あたしの顔をじーっと覗き込む。

…そんなに見つめられると恥ずかしい。

だけどあたしはその問いかけに、頷いた。



「はい、奈央です」

「!」

「高桐先生、久しぶりですね」

「…っ」

「帰って来ちゃいました」



4年ぶりの再会がやっぱり何だか照れくさくて、あたしはそう言って少し笑って見せる。

でも先生は笑ってくれなくて、まだ状況を把握できていないみたい。

…やっぱり、あの手紙は読んでいなかったんだな。

そう思っていると…