高桐先生はビターが嫌い。

「っ、いや市川も一緒に行こうよ!」

「あたしはいいよ。せっかくの再会なんだから。…あ、もし高桐先生に会えたらラインして?あたし帰るから」」

「でもっ…お礼のご飯!」

「そんなの今日じゃなくても全然いいよ。っていうかホラ、先生に早く会って来なって」



市川はそう言うと、あたしを高桐先生の元へと早く向かわせようとする。

でも、一人で会いに行くなんてちょっと照れくさいな。

それでも会いたいのは変わらないし、あたしは独り小さく深呼吸をすると、言った。



「…じゃあ、行ってくる」

「ん、頑張って。会えたっていう連絡待ってる」

「うん、またね」



あたしはそう言って市川に手を振ると、早速高桐先生の部屋に向かった。



「…501号室」



再度、後藤先生からのラインを確認して、エレベーターに乗る。

高桐先生が住んでいる部屋は501号室らしい。

マンションの中の通路も綺麗で落ち着いた感じ。

あたしはエレベーターの中でもちょっと緊張していたけれど、目的の5階に到着して更に部屋の真ん前に到着すると、さすがにすぐにはチャイムを押せなかった。



「~っ、」



…いるかもしれないんだ。このドアの向こうに、高桐先生が。

ずっと会いたかった高桐先生。

ビックリするかな。っていうか手紙見てくれたかな。

でももし、想像とは“逆のリアクション”をされたらどうしよう…。

そう考えたらなかなかチャイムを押せずに戸惑ったけど、あたしはやがて自分に喝をいれると、やがて思い切って玄関のチャイムを押した。



「…っ」



チャイムを押して、一歩だけドアの前から離れる。

…もしかして留守かな?

そう思っていると…



「はーい?」

「!」



ドアの向こうから、微かに返事が聞こえた。

あ、高桐先生の声!…じゃ、ない?

部屋の中から聞こえてきたのは、若い女性の声だった。

え…あれ?高桐先生の部屋、だよね?

そう思いながら、部屋の番号を確認していると…



「…あら?どちら様?」

「!!」



やがてそのドアがゆっくりと開いて、中からエプロン姿の女性が姿を現した。

え…だっ、誰!?



「あ…え、えっと…」

「?」



まさか中から女性が出てくるなんて思ってもみなくて、あたしは本日2回目のまさかの展開に頭が真っ白になる。

いや、何この人のこの感じ。な、なんで先生の部屋でエプロンなんてしちゃってんの?

…あ、もしかして…!



「…あ、す、すみません!部屋間違えました」

「え、」

「ここ、高桐せんっ…高桐さんのお部屋じゃないですよね?」



しかしあたしが挙動不審になりながらそう問いかけると、その女性が言う。



「いえ、陽太の部屋で合ってますけど」

「!」

「っていうか、本当にどちら様?」