高桐先生はビターが嫌い。

次の瞬間、突然上の方から名前を呼ばれて顔を上げれば。

階段のところから、驚いたような顔をして見下ろしている後藤先生が、そこにいて。



「!!ご、後藤先生っ…」



まさか校内に入って早速後藤先生に会えると思っていなかったから、懐かしさで思わずあたしも目を見開いた。



「後藤先生だぁ!」



後藤先生はまだこの学校から異動していないらしい。

あたしが後藤先生の元に駆け寄ると、後藤先生は驚いたままの様子であたしに言う。



「奈央ちゃんと市川さん!何してんのこんなとこで!っつか奈央ちゃんは帰ってきてたの!?」

「さっき日本に着いたんです!ってか先生ほんと久しぶり!」

「久しぶりすぎてまだ疑ってるよ。…いやなんか大人んなったな二人とも」

「え~先生久々なのにおじいちゃんみたーい」



後藤先生の言葉に市川がそう言うと、可笑しそうに笑う。

そんな市川に「おじいちゃんは酷くない?」って聞き逃さない後藤先生。

「リアクションがだよ」と返す市川に、横で聞いていたあたしも思わず吹き出す。



「え、奈央ちゃん帰って来てるの全然知らなかった。サプライズ?え、陽太は知ってんの?」

「一応伝えてはあるんですけどね。っていうか高桐先生、学校異動になったのは知りませんでした」

「奈央ちゃん陽太からそういうこと聞いてないんだ?何やってんだアイツ~」



後藤先生はあたしの言葉にそう言うと、服のポケットから自身のスマホを取り出した。



「陽太にラインしてみた?アイツ今日休みって言ってたよ」

「え、ほんとですか!…でも、ラインはそもそも連絡先が残ってるだけで」

「使ってないんだ?アナログじゃん、」

「……」



…だけど、休みならそもそも会える確率も高いな。

後藤先生に連絡、してもらおうかな。

あたしがそう思っていたら、横でそんなあたしの様子を見た市川が、後藤先生に言った。



「先生、代わりに高桐先生に連絡したげて。日向恥ずかしがっちゃってなかなか連絡しないの」

「え、そうなの?いや全然いいけど。っつか俺がやっちゃって大丈夫?」



後藤先生は自身のスマホを片手にそう言うと、ちら、とあたしに目を遣る。



「大丈夫とは?」

「いや、せっかくのサプライズがさ、なんか俺が連絡することによってこう…」

「だ、大丈夫ですよ!…あ!じゃあ、あたしが一緒にいること、高桐先生には言わないで下さい。
先生が今どこにいるかだけ知りたいです」

「あ、OK」



後藤先生はあたしの言葉にそう頷くと、さっそく高桐先生に電話をかける。

その横で、思わず息を潜めるあたしと市川。

…しかし。



「……でない」

「え、」

「……うん。陽太出ねぇわ」

「!」



なんと。高桐先生は後藤先生の電話に出なかった。