高桐先生はビターが嫌い。







「じゃあね」

「うん。当日は、迎えに行くよ」



それからは、お父さんとは他愛のない話をして、玄関で別れた。

引越しの手配も全部、お父さんがしてくれているらしく、それを聞いて改めて安心したあたしは、また逢えることが嬉しくて、お父さんに手を振る。

お父さんがマンションまで乗って来たのは、高そうな黒い車。

その様子を、別れたあともベランダから見ながら…また嬉しさを実感して。


その後は、再び引越しの準備を再開させた…。



******



そして、それから数週間が経って、7月中旬。

今日は、出発前日。金曜日。

学校で、先生たちやクラスメイトにお別れの言葉や色紙を貰って、マンションに帰って来たのはいつもより少し遅い時間だった。

明日はいよいよ出発だから、高桐先生が「今日は俺が夕飯買ってくるよ」と言ってくれて…今は一人、部屋で待っているだけ。

家具も明日、引っ越し屋さんのトラックが取りに来るらしい。

…この部屋で過ごすのも、今日が最後になるのか…。


そう思っていたら…


「…!」



不意に、その時チャイムが鳴って。

すぐに、玄関まで行くと…そこには。

コンビニで、夕飯を買ってきてくれたらしい高桐先生がいた。



「おまたせ」

「…おかえりなさい」



高桐先生をいつものように迎い入れると、あたしは早速お弁当をあたためる。

あたしのはカレーで、高桐先生は冷やし中華。

高桐先生は自分の冷やし中華を開封しながら、言った。



「いよいよ明日になっちゃったね…引越し」

「…」



そう言うと、ため息を…吐くから。

あたしはお弁当が温まるのを待ちながら、冗談交じりで「寂しいですか?」と先生に問い掛ける。

だけど、先生は…



「そりゃあ寂しいよ」

「!」