高桐先生はビターが嫌い。

…………


「じゃあね、また明日」

「はい。おやすみなさい」



本音を押し殺して、必死でカッコつけて。

でも、相変わらず心は酷く曇ったまま。

それでも俺は、日向さんに笑顔で手を振った。

いつもの玄関。

ここもあと、何回来れるのかな…。

日向さんの笑顔を目に焼き付けたあと、俺はドアを開けて外に出ながら…何回も日向さんに手を振る。

行かせた方がいいのはわかってる。

でも、本音は離したくなくて、行ってほしくなくて、寂しい…から。


ドアを閉めて、一旦独りになって、深く…息を吐く。

思わず…ドアの向こうで、「行くなよ」と何度も何度も唱えてしまう。


聞こえていなければいい。

でも、聞こえていてほしい。

本音は、俺のことを想って、「やっぱり」って。

やっぱり行きたくないって。

先生と一緒がいいって。

そう言って、安心させてほしい。


昨日のいつかに、日向さんのお父さんが言っていた。



『…先生は…本当に、奈央の事が大事なんですね』



そうだよ。

大事で大事で、仕方ないよ。

教師失格って、わかっていても大事過ぎて…もうずっと腕の中に閉じ込めておきたい。


こんなことになるなら…何で、最初…三回も、出会ったり…したんだよ…。


俺は日向さんに見せられない涙を流しながら…

思わず、静かに…そのドアに頭を預けた。