高桐先生はビターが嫌い。


あたしがそう言うと。

それを聞いた市川の顔が、「…え、」と固まる。

そして、「どういうこと…?」と落ち着いた口調でそう聞くから…



「だから!あたしのお父さん、シンガポールに赴任が決まってて!あたしのことも連れて行きたいって!」

「!!」

「あたし、昔シンガポールに住んでたみたいなんだけどね、そこでまた一緒に暮らしてくれるらしくてさ!」



そう言って、あまりの嬉しさに。

あたしがそう言うと、一方の市川が、「ちょっと待って」とその言葉を遮る。

そしてあたしを一旦落ち着かせると、言った。



「…シンガポール?何それ…引越し?いつ!」

「来月の…中旬?だっけ」

「え、急すぎじゃん!そりゃあ…お父さんに見捨てられてなかったから、日向にとっては幸せだろうけどさ…」

「!」



市川はそう言うと、あたしとは正反対に表情を曇らせる。

…あたしは、嬉しくて仕方なかったけど…そこまで、まだ…頭がついていってなかったのか、よくよく考えてみたら、そういえば、市川の言う通り…だよね。

あたしがシンガポールに行くってことは…みんなと…高桐先生とも、離れなきゃいけなくなるんだ…。

あたしがそれに気が付いて考えていると、市川が「でも、」と言った。



「まぁ…確かに寂しくなるけど、それでも決めるのは日向だからね」

「!」

「日向がそれで幸せなら、あたしも潔く見送るよ」



そう言って、「頑張ってね」と。

やっと、また笑顔を向けてくれる…けど。

…どうしたらいいんだろう。

どうしたいんだろう。

あたしはお父さんについて行きたい…けど、皆と離れるのは…高桐先生との卒業後の約束も、ぜんぶ無くなってしまうのは…確かに嫌だ。