高桐先生はビターが嫌い。

高桐先生が、少し震える声でそう言うと。

やっぱり少し、悲しそうな…切ない目をした高桐先生と、目が合う。

…その急な言葉に、あたしは頭が一瞬ついていけていなかったけど…



「…ふにん…?」

「うん、仕事で」

「あたしも…一緒に?」

「そう。お父さんは、今まで自分が父親らしいことをしてあげられなかったから、これから挽回して親子二人でまた幸せに暮らしたいって…」

「…、」



…その言葉に。

急すぎる言葉に。わけがわからなくて。

でも、よくよく考えていくと…沸々と。

嬉しさが、あたしの中で大きくなっていって。

…昔、あたしを育ててくれたおばあちゃんに聞いたことがあった。

あたしは昔、幼い頃にお母さんとお父さんと一緒に三人でシンガポールで暮らしていたこと。

あたしはもう記憶がほとんど無いけれど…その話を、思い出して。


捨てられたと思っていたけど。

捨てられていなかった事実。

やっと差し出してくれたその手を、あたしは…避けるわけがなかった。



「…本当に…?」

「…」

「本当に、お父さん…そんなこと言ってくれたんですか…?」

「…うん。本当だよ。…で、これ」

「…?」



その時、高桐先生がスーツのポケットから取り出したのは。

小さな紙切れ。

そこには、お父さんの変わらない電話番号が書かれてあった。



「…夜の7時以降なら出れるかもしれないって。一度話がしたいっておっしゃってたから、もらってきた」

「!」

「今日あたりにでも…かけてみたらいいよ」